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「……死ぬ、つもりだったのか?」
震える声で、ヴィクトルがそう問いかけてくる。……視線を、合わせられなかった。
「どうして……」
ヴィクトルの口から、小さく漏れたその言葉に、カーティアはかっとなってしまった。
「どうして? そんなの、嫌に決まっているからじゃありませんか!」
もしかしたら、男性のヴィクトルにはカーティアが置かれている立場が、どれほどに劣悪なのかわからないのかもしれない。
(確かにこの娼館はきれいよ。高級娼館かもしれない。だけどっ……!)
そういう問題では、ないのだ。
「ここにいる、生きて存在するということは、不特定多数の男性に抱かれるということです。……そんなの、私、耐えられない……!」
「カーティア……」
「男性であるあなたさまには、わからないでしょうね。だって、金さえ出せば女性を抱ける側なのですから」
こんなこと、言うつもりじゃなかった。だけど、口が止まらなかった。ぽつりぽつりと言葉を投げつけて、ヴィクトルを睨みつける。……彼が、少し傷ついたような表情を浮かべる。そんな表情をする権利など、彼にはないだろうに。
「理解してくださったのならば、もう放してくださいませ。……それと、あなたさまはさっさと立ち去ってください」
もしも、ここにヴィクトルがいたら。カーティアが飛び降りた責任を問われるかもしれない。少なくとも、それはカーティアにとっても不本意だ。
そう思いつつ、ヴィクトルの腕の中で暴れる。……だが、彼はカーティアの身体を解放することはなかった。
それどころか、カーティアの身体を強く、それは強く抱きしめてくる。
「……そんなこと、俺は思っていない」
……今にも、消え入りそうなほど小さな声だった。
「俺は、あなたを不特定多数の男に……それも、俺以外の男に抱かせるつもりなんて、これっぽっちもない」
……けれど、彼は一体なにを言っているのだろうか?
「はっきりと言います。俺があなたを身請けします。今すぐ、娼館から出てく準備をしてください」
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