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「お金だって、たくさんかかります」
「金など、あなたのためならばいくらでも使う。……心配しなくてもいい」
そう囁いたヴィクトルが、カーティアを抱きしめる力を強めた。ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、ちょっと苦しい。
「もちろん、家の金はあなたが自由にすればいい」
「……あ、あの」
「あなたのために、俺はもっと稼ぎを増やそう」
「い、いや、あの……」
その話は、おかしい。
(家のお金を自由にって……それは、女主人が出来ることでは?)
そう思って、余計に頭が混乱する。
そんなカーティアを見つめるヴィクトルの目は、何処までも愛おしそうだった。
「その、ヴィクトルさま。……いくつか、お聞きしたいことが」
控えめにそう声をかければ、彼は「いいぞ」と言ってくれた。その腕はカーティアの身体に回されたままだ。
……解放してくれる素振りは、ない。
「あの、私は。ヴィクトルさまに身請けされた後、どうなるのでしょうか……?」
多分ではあるが、彼の愛人とか。そういうものになるのだろう。
愛人とは日陰の存在だ。それでも、ここで不特定多数の男性に抱かれるより、ずっといいとは思う。……ヴィクトルは、乱暴にはしないだろうから。
「そんなもの、決まっているだろう。……俺の妻になるんだ」
「……え」
でも、返ってきた言葉は予想外すぎるもので。
カーティアの口から、ちょっと上ずったような声が零れた。
「あなたは俺の妻になる。初めは婚約者として滞在してもらうことになるだろうが、そんなもの誤差だ」
「……誤差」
「あぁ。俺はあなたの夫として、あなたを一生愛し抜く」
彼が伝えてきた言葉は、何処までもまっすぐだった。
……心臓を、掴まれてしまうほどに。
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