第1話:プロローグ(前世の記憶の入口)

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第1話:プロローグ(前世の記憶の入口)

「はぁ・・・はっ、はぁはぁ・・・・うぅ・・・・」 辺り一面真っ赤に染まっている。 (血液なのか?・・・いや、炎?・・・・) その両方が入り混じる中央に私は両膝をついていた。左手に青白く光る鋭い短剣を握り勢いよく自分の喉へ突き刺した。 「わぁぁぁーーーー!!はっ!はぁ、はぁ、はぁ・・・・」 目の前に白い天井。ゆっくりと身体を起こし、額に手をやる。全身がぐっしょりと濡れていた。 「また・・・・同じ・・・・夢・・・・」 ベッドの上で暫く額に両手を添えて、呼吸を整えた。 子供の頃から何度となく見た同じ夢。最近、その夢をまたよく見る。 辺り一面が真っ赤に染まり、炎に包まれている夢。もう一つは炎に向かい叫び声をあげている夢。どちらも大声をあげ目覚める。 断片的なその夢とどこで繋がるのかは解らないが、灰色の馬にうつ伏せの状態でゆられ、背中に痛みを覚えながら朦朧(もうろう)としている夢もある。 「なぜ、こんな夢を見るのだろう?」 子供の頃、この夢を見るのではないかと思うと毎夜眠につくことが怖かった。 独りで抱えているのが()えられず母に夢の話しをした。 母は嫌な毒虫(どくむし)でも見る様な目で私を見下(みおろ)し言った。 「あなた、そんな話をしていると頭のおかしな子だと思われるわよ。夢は夢。あなたの夢の事まで知らないわ。私にそんな話しをしないでちょうだい!それでなくても忙しいのに!」 母の決まり文句だった。 「それでなくても忙しいのに!」 この言葉を聞く度に胸の奥底で何かが(うごめ)く感じがした。 胸の奥で蠢く何かは回を重ねるごとに黒々とした(かたまり)に成長していく。 (もう、どんなに恐ろしくても夢の話しをするのはやめよう) 7歳の誕生日、私は私の中で決着をつけた。 それ以来、何度も見る同じ夢の話しを誰かにすることはなかった。 額に手を置き汗を拭い(つぶや)く。 「なぜだろう?今になってまた・・・・」 自分自身で結論が導き出せないことは考えない様にしている。 「時間のムダだな」 ここでもまた同じ決着のつけ方をした。
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