第2話:蘇る伝説の騎士の記憶

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エリオスが部屋を出るとセルジオはアンとキャロルへ問いかけた。 「さぁ、姫様方、お待たせをしたな。いかなる願いごとがあるのだ?」 セルジオはアンとキャロルへ優しい微笑みを向ける。 アンは長椅子で姿勢を正し、バラの花の茶をすするセルジオへはにかみながら口を開いた。 「セルジオ様、お願いがあるのです。今日はお天気がよいから西の森にクルミを拾いに行きたいの」 キャロルがアンを真似て繰り返す。 「セルジオ様、キャロルは姉さまと一緒にクルミを拾いにいきたの」 セルジオは飲み干したカップを丸テーブルへ置くとアンとキャロルへ少し困った顔を向けた。 「そうか、そうだな。クルミも沢山落ちている頃合いだな。それではメアリも一緒に行ってもらえるか?私は、総長から城に上がる様言われているから一緒にいけないのだよ。すまぬな」 セルジオは答えながらメアリにクルミを入れる(かご)を用意する様に言う。 「大丈夫よ!セルジオ様。メアリとアンとキャロルで沢山のクルミを拾ってくるわ。セルジオ様がお帰りになる頃には美味しいお菓子をご用意しておくわ」 まだ8歳にならないアンは利発な子だ。目を輝かせセルジオに嬉しそうに言った。 「楽しみにしているよ。でも、西の森は城の外だから危ない所なのだよ。お日様が真上にくる頃には屋敷へ戻ってくるのだよ。約束だ」 西の森は隣国スキャラル国との国境線に近く、西を守る防砦の外に位置する。 北戦域で侵略の備えをしているとはいえ、西からの侵略がないとは言い切れない。 セルジオは少しの不安を覚えていた。 カチャリ! シャラン セルジオは身に付けていた首飾りを外し、アンを手招いた。 「アン、念の為にこの首飾りを持って行け。この首飾りは身に迫る危険を遠ざけてくれる守りなのだ。『月の(しずく)』と申してな、そなたの母オーロラとエリオス、ミハエルと揃いの品なのだ」 セルジオはエステール伯爵家の裏の紋章であるユリの花を模し中心に月の(つきのしずく)と呼ばれる青白く輝くロイヤルブルームーンストーンが埋め込まれた首飾りをアンの首にかけると両手で握り、目を閉じた。 (月の雫を首より下げしこの者を守りたまえ) 願いをかけると首飾りに口づけをする。 「これで大丈夫だ。アン、約束だけは守るのだぞ。お日様が真上にくる頃には屋敷へ戻ってくるのだぞ」 セルジオはアンの頭を優しくなでた。 「はい!セルジオ様。ありがとうございます。セルジオ様とのお約束は必ず守るわ!お日様が真上にくるまでには沢山のクルミを拾ってお屋敷に戻ります」 アンは嬉しそうに首飾りを握った。 セルジオはメアリに念を押す。 「メアリ、悪いが2人を頼む。西の森は今は安全とは言えない。少しでも危険を感じたなら子ども達を制して戻ってくれ」 メアリは真剣な面持ちで呼応した。 「承知致しております。お二人とも聞き分けがよろしいですからご安心下さいませ。お昼までには戻ります」 メアリはセルジオの不安をいとも簡単に拭い去った。
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