第1話:プロローグ(前世の記憶の入口)

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48歳、バツイチ、独身、子供なし。パートナーはいない。社会に出て25年。組織の中で経営企画部に所属していた。いわゆる企業戦士(サラリーマン)である。 「経営企画部ってどんな仕事をする部署なんですか?」 今ではさほど珍しくもないと思うが、数年前までは名刺交換の度に必ずと言っていい程質問されたものだ。 「企画」の上に「経営」がつく事で職種のイメージがつきにくくなるのだと理由づけをしていた。 経営企画は規模や業態にもよるが組織を将来に向けて活性化、成長する為のトップの構想を具体的に企画立案し、実行できる状態まで落し込む。 押すか引くかの判断材料を情報収集、編集、分析しトップへフィードバックをすると言った所が主な仕事だ。 この仕事、実はかなり泥臭くハードで休日がない事もしばしばある。今であれば確実に法令違反と言えるだろう。 その頃の私は仕事が趣味で趣味が仕事だった。その為何の疑問も抱いておらず 「120%の成果を出して初めてプロと言える!」 等と周りが引く様な事を当たり前の様に思っていた。 ついたあだ名は『サイボーグ』 なぜ?そんなあだ名がついたのか?それとなく部下に聴いてみる。 「感情を一切表に出さず、目的を成し遂げる為にあらゆることをやり尽くすから」だ、そうだ。部下は続ける。 「たまに思いますよ。感情を表に出さないのではなくて、感情そのものがないのではないかと!」 (ひど)い言われようだ。 そもそも組織に所属し、その組織から報酬を得ているのだから目的を成し遂げることはしごく当たり前のことで、プロとしての責務(せきむ)だろう。(と、そこは今でも思っている) とは言え、私とて不本意な仕事をやらざるを得ない事もある。不本意と思わず、経験と思う様にしているだけだ。 が・・・・ 社会に出て20年が過ぎた頃、歩んできた道と将来への道に違和感を覚え始める。 「このまま・・・ずっと・・・不本意な事も仕事だからで済ませていくのか?」と。 性分なのか?無鉄砲なのか?鍛え上げられた習性なのか?定かではないがある日退職届を出す。 「起業します!ので退職します!」 「はっ?どうしたの?突然!」 上司は驚く。 それはそうだろう。一番驚いているのは何を隠そう私なのだから。 と心の中で思いつつ 「現在手持ちの4案件は完了させますのでご安心下さい!」 と啖呵(たんか)を切った。唖然(あぜん)とする上司と部下達。その半年後晴れて退職、一年後に起業した。
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