第2話:蘇る伝説の騎士の記憶

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シュタイン王国は18貴族に准貴族の任命と所領の再分配、管理運営を一任する一方で様々な定めを設けていた。 その定めの一つに所領内に最低一か所は修道院、治療院と共に孤児院を設けることを課していた。 戦火に見舞われた国や手放さざるを得なくなった子ども、自国以外から逃れてきた子どもらを保護し、育て、里親があれば引き取らせる。 里親がなければ7歳を超えた頃、貴族や騎士団へ小姓として仕えさせ、生涯の行く末までを保証していた。 オーロラが引き取ったアンとキャロルは、オーロラが遠征時に戦火に見舞われたある村で小さな身体を寄せあい泣いていた所を保護し、連れ帰った姉妹であった。 魔導士は騎士や従士と共に戦場へ(おもむ)く。オーロラの持つ光と炎の魔術の力は、直接の戦闘と後方支援の両方で活かされ、戦場ではなくてはならない存在であった。 オーロラは、隣国スキャラル国の侵略に備え、北戦域に赴く事になった。 その日オーロラはセルジオ騎士団城塞、西の屋敷をアンとキャロルと共に訪れていた。 「私が留守の間、アンとキャロルをお願いできるかしら・・・・城では・・・・王都の城ではアンとキャロルをよく思わない近習(きんじゅう)もいるの。城には置いてはいけないの」 オーロラは唯一信頼できるセルジオにアンとキャロルを託しにきたのだ。 戦場から連れ帰った孤児を孤児院ではなく、オーロラの手元で育てることに王家が快く思うはずがない。事情を重々承知した上でセルジオは2人の女児を快く預かる事にした。 「西の屋敷であればアンとキャロルの知る者も多い。構わぬぞ。2人の愛らしさは西の屋敷の者達への癒しにもなろう」 セルジオはアンとキャロルを抱き上げる。 「アン、キャロル、母が傍におらぬとも大事ないか?ここにはメアリもいる。そなたらの過ごしやすい様に過ごせばよい」 2人の女児に微笑みを向けるとセルジオ付の女官長メアリの傍近くに(おろ)す。 「メアリは存じておろう?西の屋敷での母と思って甘えるがよい」 メアリは2人に微笑みを向けた。 「アン様、キャロル様、何なりとメアリにお申し付け下さい」 アンとキャロルはメアリの両手を片方づつ握りしめた。 年長のアンがキラキラと輝く薄い緑色の瞳でメアリを見上げる。 「はい、メアリ。よろしくお願いします。母様から言われています。セルジオ様とメアリのお話を聴いて、お2人を困らせることのないようにと」 メアリはアンの言葉に目を細める。膝を折り、目線を合わせると2人の手の甲に優しく口づけをした。 「左様にございますか。アン様はご挨拶もおできになるのですね。これよりよろしくお願い致します」 メアリと2人の子のやり取りを静かに見ていたオーロラがメアリに礼を言う。 「メアリ、ありがとう。メアリの傍近くで2人が過ごせるのであれば安心だわ。ありがとう。よろしく頼みます」 オーロラはセルジオとメアリに2人を託すと、その日の内に北戦域へ遠征に赴いた。
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