第2話:蘇る伝説の騎士の記憶

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セルジオが西の屋敷でアンとキャロルを預かり2週間程経ったよく晴れた日の早朝、セルジオ騎士団団長居室をアンがキャロルの手を引き訪れた。 トンッ!トンッ!トンッ! 「セルジオ様、アンです。おはようございます。お部屋に入ってもよいですか?」 日課である夜明け前からの剣術訓練を終えたセルジオは湯浴(ゆあ)みの最中だった。 メアリが扉を開ける。 メアリは微笑みながらアンとキャロルをセルジオの居室へ招き入れた。 「おはようございます。アン様、キャロル様。どうぞ、お入り下さい。セルジオ様はただ今、湯浴(ゆあ)みをなさっておいでです。暫く中でお待ち下さい。バラの花のお茶と焼き菓子をご用意しますので、ゆるりとお待ち下さい」 メアリはアンとキャロルを居室奥の長椅子へ案内する。 アンがメアリを見上げる。アンの薄い緑色の瞳はいつになくキラキラと輝いていた。 「メアリ、おはようございます。セルジオ様のお邪魔にならないようにと母様から言われていましたのに湯浴(ゆあ)みのお邪魔をしてごめんなさい」 「いえ、お邪魔ではありませんよ。さっ、お部屋の奥へどうぞ」 メアリはセルジオが湯浴みをしている隣室に秋の冷たい空気が流れ込む前に居室の扉を閉めた。 アンとキャロルは居室奥の長椅子にちょこんと並んで座るとバラの花びらをポットへ入れるメアリの姿をじっと見ていた。 「メアリ、そのバラの花びらは母様が先日持っていらしたものですか?」 メアリがポットへお湯を注ぐとバラの香りが漂う。 「はい、左様にございます。オーロラ様より頂戴致しました。バラの花のお茶はラドフォール公爵家の回復術が施してありますからセルジオ様は小さな頃より稽古や訓練が終わりますと焼き菓子と共に必ずお飲みになるのです。オーロラ様はその事をご存知でいらっしゃいますから切れない様にと時折お持ち下さるのですよ」 メアリはポットに厚めの布をかぶせると一番小さな砂時計をくるりと回転させた。 「砂が全て落ちましたら飲み頃です」 アンとキャロルにニコリと微笑みを向ける。 キャロルは長椅子からそっと下りると砂時計が置かれる丸テーブルへ近寄った。 「メアリ、お砂が落ちるのを見ていてもいいですか?キラキラと天の星が舞いおりている様できれい・・・・」 5歳になったばかりのキャロルは騎士団城塞である西の屋敷で目にするものが全て珍しく感じているようだった。 「キャロル様、ポットは熱いですから触れない様になさってくださいね。火傷(やけど)でもされてはセルジオ様にメアリが叱られてしまいます」 メアリは目を細めながらキャロルへ注意をする。 「メアリ、大丈夫よ。母様と炎の魔術の訓練をすることもあるから熱いことには慣れているの」 キャロルは屈託(くったく)なく笑った。
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