無自覚王子とテンパ眼鏡くん

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「うわ……またたそがれてるな」 私は窓の外から目を離し、声のする方へ顔を向けた。 「なんだよ…紅葉」 声の主は真中紅葉。 くるくる天然パーマにメガネを掛けたちょっと不思議な男子だ。 私の前の席ということを悪用(?)し、ちょくちょく話しかけてくる。 「ホント…柊は無自覚王子だな」 紅葉は眼鏡をクイ、と上げ私の方を見た。 私はそいつから目を離すべく教室の外へ目を向けた。 と 「キャァァァ……柊くんがこっちみた…」 何人か女子が頬を赤らめ歓声を上げ、ろうかを走っていった。 「ったく……るせぇな」 意図もせずつぶやく。 と紅葉は笑いながら 「ほらこんなところが無自覚王子なんだよ」 と言った。 よくわからないが無自覚王子、と呼ばれた私は正真正銘女子である。 柊まひろ。 名前だけ見ると確かに男子にも見える。 だが紅葉いわく私はどこからどう見ても男子、らしい。 確かに少し切りすぎたショートカットは男子にも見える。 昔からコンプレックスだったまつげの短さなども影響しているだろうか。 しかし……一番の問題はここだろう。 私は机に寝そべった。 それでも違和感のない胸。 そう、私は高校生になっても胸が小さいのだ。 そして動きやすいからという理由で制服はズボン。 最後の決め手は兄、下二人弟のせいで少し乱暴になった言葉遣いだ。 これで無自覚王子の完成らしい。 「他のクラスの女子らはお前のことめっちゃかっこいい男子って思ってるみたいだぜ。確かに俺よりもかっこいいけどさぁ…」 紅葉はそう言って笑った。 私は廊下を見るのをやめ再度外の景色を眺める。 紅葉も無理に話しかけてはこず、私の机に肘を立てたまま立っていた。 その状態で10分ほどたった頃… 「おーい、真中。先輩が来いだってよ」 私がさっきまで見つめていた廊下で誰かが叫んだ。 「おう!ちょっとまっとけ」 紅葉は廊下に向かって返事をすると私の方をもう一度見た。 「じゃあな柊」 ひらひら、と手を振り彼は教室から出て言ってしまった。 「おん……」 私は寝そべったまま返事をした。 ジリジリ……っと嫌味を言うかのように鳴き始めたアブラゼミ。 校庭で遊び回る楽しそうな声。 教室で話している人たちとはグループが違い、輪のなかにも入っていけない。 いわゆるぼっちってやつだ。 外を眺めるのをやめ、廊下に頭だけ向ける。 紅葉が髪の長い女の先輩と楽しそうに話していた。 彼は陸上部で足がとても早い。 その事もあってか様々な大会に出ていた。きっと今回もそのお誘いだろう。 紅葉は私と話しているときよりもきっと楽しいんだろう。 先輩の要件は済んだようだったが、まだ話している。 私は髪を触った。 (髪……長い人が好きなのかな…) 「ですよね〜〜!」 適当に先輩の言葉に相槌を打ちながら俺は柊のほうをちらちらと見る。 教室で一人ぼっち。 ここからみると男のようだが、そこがまたかわいい。 早く先輩の話終わってくれないだろうか。 「ねぇねぇ真中くん、12日さ合コンあるんだけどいかない?」 俺は眼鏡がまた下がってきたことを察して上げる。 そして満面の笑みと言うやつなのだろう、それで答えた。 「いきません」 「柊ーーーー!」 俺が廊下から戻りつつ叫ぶと彼女は顔を上げた。 「紅葉…うるさい…」 「いやぁ…早く柊と話したくてさ」 柊は息を呑んで一瞬言葉に戸惑ったようだ。 これは脈アリかなしか。 「そ…、私も紅葉と話すの楽しいぜ」 俺のように作っていない笑顔。 胸が高鳴った。 あぁ……やっぱり俺はこの人のことが好きだ。再度確認ができた。 だが……きっと柊はそう思ってないだろうな。 でも好きにさせるてみせるから絶対に。 (な、な、いきなり……なんだったんだ…) 私はきっと赤くなっているであろう顔を見られないようにうつ伏せになる。 天然なのか狙ってるのか。 思わず素で答えてしまったが、ひかれなかっただろうか。 ちら、と目だけを彼に向ける。 「12日さカラオケでもいかない?」 紅葉の口から出たその言葉に私はうなずくしかなかった。 完
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