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「ふふ、お揃いの制服ね。こんな日が来るなんてね」
父も同様に紫紺制服の装い、親子共々、陸上自衛官だった。
「寿々花は新しい勤務地で頑張ってください。お父さんも二年目の旅団長職務、新年度で頑張ってください」
「うむ、心得た。いってくる」
「いってまいります、お母さん」
母へ向けて、父と一緒に敬礼をした。
ヨキをだっこしている母が『やだ二人揃って真剣すぎ』と笑い出した。まるで母が隊長のようだと父とも笑った。
だが、笑い話のようであって、笑い話でもない『威厳』を母が醸し出す。
「でも寿々花。父親とおなじ勤務地になったからこそ、気を引き締めて務めるのよ」
「わかっています」
「陸将補、旅団長の娘だからとて甘えてはいけません。わかっていますね」
「はい」
陸将補を夫に持つ自衛官の妻である心得で、母は娘を諭す。そんな母と娘のやりとりに、父はちょっと困った顔をしていた。
「そこまで気負わなくてもな。気負いすぎて失敗されても困る」
「なんですか、お父さん。お父さんも娘だからと甘くしてはいけませんよ。隊員は見ていますからね!」
目をつり上げて説く母に、父がおののいている。陸将補の父をたじだじにすることができる母は凄いなと、おなじ自衛官になったからこそ寿々花もおののく。
自衛官となったいまでは、父であっても、駐屯地で遠くに見かければそこは強面の陸将補、旅団長、やすやす話しかけたり近づいたりなんてできるはずもない。
父が当惑しているそこで、チャイムが鳴った。
お迎えが来たようだった。
寿々花も一緒に玄関へ向かう。
新年度ということで、旅団長である父に属する副官と運転手を家族に紹介しておく名目で、今日は公務車で迎えに来てもらうことになっていた。
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