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拓人のそばに席を取った岳人パパが、息子にスマートフォンを向ける。そして撮影をしながら、呟いた。
「拓人。パパと『いちい』、お友だちになれたよ」
チョコレートソースが口元についてしまったまま、拓人がまた目をおっきく開いてふたりを交互に見た。
「ほんとに! じゃあ、パパといちい、また会ったりするの」
「うん。すげえかっこいいお友だちだから、パパさ、もっと仲良くなりたいから、ここ北海道に住もうと思っているんだよ。拓人とお引っ越しになるけどいいかな」
まだ詳しく聞いていない父と母は、父親である男二人がそんな話を決めていたことに驚きを見せていた。だが落ち着いたいつもの様子で、口を挟まずに笑顔のまま黙っている。
それまで元気にパフェを食べていた拓人が、スプーンを握ったまま泣きそうな顔になった。
ああ、やっぱり。育った場所、慣れた幼稚園、可愛がってくれたおじいちゃんおばあちゃん、そしてママと離れたくないのかな――。そうはうまくはいかないかと寿々花は感じた。
「パパと、ほっかいどうきたら、ママもうおこらない?」
その言葉に、そこにいる岳人パパ以外の大人全員の息が止まったのがわかった。
その渦中にずっといた岳人パパだけが自然な笑みを息子にむけている。
「怒られないよ。ママはいまママじゃないんだ。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに治してもらうまで、拓人はパパと一緒にいような。でも幼稚園はバイバイになる。でも『いちい』と音楽隊のお姉さんと、『しょうほ』と、ヨキ君のママと、ヨキ君と、今度はすぐ会えるようになるよ。北海道で一緒にいてくれるって、約束してくれたよ」
美味しそうに食べていたパフェのスプーンを手放した拓人が、すぐ隣に座っているパパへと抱きついた。
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