3.パパのおともだち

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 口の端にチョコレートがついていたのに。それが着ているシャツについても岳人パパはおかまいなし、優しく微笑んだまま、脇に抱きついた拓人の頭を撫でている。そのまま、拓人がわんわんと泣き出したのだ。 「頑張って、我慢していたと思うんです。今日まで……」  やるせなさそうに呟く岳人パパの言葉を聞き、いまここでやっと我慢せずに泣いている小さな子を見て、寿々花だけじゃない、父も母も怒りに震えているのがわかった。自分の孫と重ねたのだろう。  そして、誰よりも怒りを燃やし、テーブルの上で握りしめている拳を震わせている男もひとり。その男は部隊で恐ろしい顔をしている彼そのものだった。  おなじく険しい目つきで頬を強ばらせている父が言い放った。 「館野、容赦するな。徹底抗戦だ。上官からの厳命だ。徹底的に行け、叩きのめせ」 「もちろんです」 「手を緩めるな。おまえ、ヒーローになれるよな。自衛隊はヒーローなんだぞ」 「当然です」  ちょっとちょっと、私服なのにおっかない陸将補が猟犬を野に放すように煽っているし、制服姿の自衛官が仕事同様の冷徹さを醸し出しているし! プライベートだけど、戦闘員の意識を高めちゃってる!  でも母もなにも言わない。『そうね、そうだわ。そうしちゃいましょう!!』とプンスカ一緒に怒っていた。  もちろん寿々花もだ。  それと同時に寿々花も心に決める。『母』とは名乗らない、母になろうと――。
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