4.凍てつく白に彩りを

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 もう~なんなのなんなのと憤る寿々花だが、こうしてすぐ顔に出るところを子供っぽいと思われるのは仕方がないのもしれない。それに彼は、これまでずっと父親として生きてきた男。父親の心のほうが先に育っていて、いままでも遠い目で『他人の子供』を見かけては、拓人の姿をその子に当てて幻を見て生きてきたのだろう。寿々花のことは『上官のお子様』として、将来の拓人を写していたところもあったようだから……。  それに。制服を着ているのに、彼が楽しそうに声を立てて笑っている姿が嬉しくなっちゃうから困る。これ、部隊では絶対に見せてくれない彼の顔で、寿々花のもの。寿々花といることで気を緩めている、信用してくれているからとわかってしまう瞬間なのだ。  からかうだけからかって気が済んだのか。笑い声を収めた彼の表情が穏やかに落ち着く。  綺麗に整った男の顔は、鋭利な冷気を放っている時より、静かにやわらかな面相の時のほうが、数倍も素敵に見える。色香もほのかに漂う。  その落ち着いた大人の顔で、急に彼が甘い眼差しを寿々花に落とすと、そのまま長い腕が寿々花の腰に回って抱き寄せてきた。 「岳人さんが、『拓人の添い寝ができなかった夜は、ちいさくてあたたかい彼がいないことで、余計に寒くなる』、拓人といきなり離れるのはそんな感覚だと言っていただろう。あれ、わかるな。いまの俺は、寿々花がいない夜は、すでに人肌恋しい男になっているよ」  それって夜は一緒に眠っている時のことだよねと、寿々花は神妙になる。そしてやっぱり複雑なんですけど? 拓人君はほわほわ愛らしい身体で微笑ましいけれど、寿々花の場合は……素肌、のはず……。また顔が熱くなる。
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