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「寿々花だから……。息子の話も、仕事の話も、気兼ねなくしてしまう」
なんだか申し訳なさそうな顔をしているのを、抱きしめられた胸元から寿々花は見上げる。
「ほんとうに俺でいいのか、寿々花。寿々花は初婚なのに」
「え、将馬さんも、初婚でしょ」
「初婚未遂の子持ちというか……」
「拓人君、かわいいから。これからあなたと、岳人さんと、たくさん思い出をつくってあげたいと思っているよ。だから、トマムに一緒に行こう。ちびっ子が遊べるウォータースライダーとかある温泉もいいね」
彼の胸元から微笑みを見せたら、また妙に思い詰めたような彼にきつく抱きしめられている。
「ありがとう、寿々花。ありがとう……」
泣きそうな彼の声が耳元で響く。彼の熱い息が涙を堪えているものだということは、知らぬ振りをする。
寿々花の黒髪の頭を、彼がいつまでも愛おしそうに撫でてくれるから、寿々花は彼の逞しい背中を包むように抱きしめた。
増えていくの、これから。
質素でなにも欲しなかったあなたの部屋に、少しずつ暮らしの彩りが増え始めたように。
数枚しかない拓人君の写真立ての横に、これからたくさんあの子の笑顔の写真と、彼が成長していく写真も増えていくの。
一緒に増やしていくからね――。
あなたも、もう独りではないからね。
もう一度、寿々花は将馬の身体を、彼より小さな身体で強く抱き寄せた。
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