4.凍てつく白に彩りを

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「寿々花だから……。息子の話も、仕事の話も、気兼ねなくしてしまう」  なんだか申し訳なさそうな顔をしているのを、抱きしめられた胸元から寿々花は見上げる。 「ほんとうに俺でいいのか、寿々花。寿々花は初婚なのに」 「え、将馬さんも、初婚でしょ」 「初婚未遂の子持ちというか……」 「拓人君、かわいいから。これからあなたと、岳人さんと、たくさん思い出をつくってあげたいと思っているよ。だから、トマムに一緒に行こう。ちびっ子が遊べるウォータースライダーとかある温泉もいいね」  彼の胸元から微笑みを見せたら、また妙に思い詰めたような彼にきつく抱きしめられている。 「ありがとう、寿々花。ありがとう……」  泣きそうな彼の声が耳元で響く。彼の熱い息が涙を堪えているものだということは、知らぬ振りをする。  寿々花の黒髪の頭を、彼がいつまでも愛おしそうに撫でてくれるから、寿々花は彼の逞しい背中を包むように抱きしめた。  増えていくの、これから。  質素でなにも欲しなかったあなたの部屋に、少しずつ暮らしの彩りが増え始めたように。  数枚しかない拓人君の写真立ての横に、これからたくさんあの子の笑顔の写真と、彼が成長していく写真も増えていくの。  一緒に増やしていくからね――。  あなたも、もう独りではないからね。  もう一度、寿々花は将馬の身体を、彼より小さな身体で強く抱き寄せた。
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