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母がインターホンに出る。
『おはようございます。お迎えにまいりました。館野です』
「おはようございます。ご苦労様です。少々おまちくださいね」
父がリビングを出て玄関で靴を履き始める。
寿々花も父の次に靴を履いて、玄関先で母とともに並んで父から紹介をしてもらう手はずになっていた。
家族がみな玄関に集まったので、ヨキもついてきて、父が靴を履くそばでふんふん尻尾を振って見送ろうとしている。
父が玄関を開けると、一歩下がった位置で敬礼をした男性がいた。
「おはようございます。伊藤陸将補」
「おはよう、館野一尉」
制帽をかぶり紫紺の制服を着込んだ男性がビシッとした動作で、父が進むはずの道をあけるようにして右脇横へと向きを変え控えた。その時の姿勢、背筋がビシッと伸びてまっすぐ。さすが自衛官のたたずまいだった。
制帽を目深にかぶっていたその人の前へと、母と寿々花も促され玄関先へと出た。
「今日から副官として着任した館野一尉だ」
「館野将馬です。よろしくお願いいたします」
きっちりとしたお辞儀も素晴らしいものだった。
彼が頭をあげる前に、父が続けて妻と娘を紹介する。
「妻の遥と、先日知らせた方面音楽隊へと転属となった娘の寿々花だ」
彼が頭を上げ、制帽のひさしから上官のそばに控えている妻と娘へと視線を向ける。
ほのかにとどめただけの笑みが口元にわずかに現れただけ。影になっていた目元に朝の陽射しが当たった。
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