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「よっ君。おはよう、おはよう」
慣れた手つきでヨキをだっこして、ふさふさの毛を一生懸命に撫でてくれる。
ヨキもすっかり慣れて、いまは『遊び相手』として懐いていた。拓人もヨキのことを大好きといって可愛がってくれる。
「いらっしゃい。たっくん、岳人さん。朝は忙しいわね」
「お母さん、いつもありがとうございます。今日も拓人をよろしくお願いいたします。迎えの時間は自分が行きますので」
「今日、お父さんと将馬さんが東京の出張から帰ってくるのよ。金曜日で、明日はお休みでしょう。よかったら、こちらで一緒に晩ご飯しましょうよ」
「マジっすか! お母さんの手料理が食べられるなら、俺、今日一日めちゃくちゃ頑張れちゃうな!」
「僕も、遥ママのポテトサラダ食べたい! ほんのりバターの味がするやつ」
「うんうん、わかったわよ。作っておくね。ほら、岳人さん。地下鉄に乗り遅れるわよ」
「ほんとうだ。行ってきます」
パパいってらっしゃい――と、母と拓人とともに寿々花も見送った。
それと同時に寿々花も制服姿で靴を履く。
初夏になり、元気いっぱいTシャツ姿の拓人の手を取る。
「よし、行きますか。たっくん」
「うん、しちょう、行きましょう」
小さな手が寿々花の手を握る。
「いってらっしゃーい」
ライラックが咲き始めた伊藤家の庭先。母がヨキをだっこして見送ってくれた。
伊藤家のライラックは白と紫色。北国のひんやりとした朝の風に揺れると、花の香りが漂ってくる。
「お花の匂いだ。あのお花かな」
門扉を出たところで、家の塀の外へと垂れ下がっているライラックを拓人が見上げる。
「うん、ライラックというお花でね。北の方で咲くお花なの。『札幌市の木』になっているんだよ」
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