5.この手を握って、離さない

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「いっぱい咲いているね。しょうほのおうち、お花がいっぱい咲くんだね」 「すずちゃんが子供のころから咲いているの。このおうち、遥ママのお父さんとお母さん、すずちゃんのお祖父ちゃんとお祖母ちゃんのおうちだったからね」 「僕、このおうち好き。おっきなお部屋がいっぱいあって、よっ君もいるし、しょうほと遥ママやさしいし、みんないっしょにおっきなテーブルでごはんもできて、お庭にお花もいっぱいさくから」  そう聞いて嬉しくなる寿々花だが……。  育った家のことは、小さな彼の中ではどうのように残っているのかとも感じた。  だがそれをわざわざ聞く大人は、もうここにはいない。  よほど心を傷めていたのか、不思議と拓人からも『ママ』の話が出てこない。  いちばんに抱きついて泣くのは今も岳人パパだし、まだ実父とは知らぬ『パパの親友』である将馬にも拓人は懐いて、泣いたり笑ったりも素直に見せている。すずちゃんは、パパの親友の奥さんになる人。しょうほと遥ママは、すずちゃんのパパとママ、『いちい』のお仕事の上司という関係性でまとまっていた。  館野一尉と伊藤家が必要以上に、岳人パパに協力的なことは、いま幼児の拓人には知らなくてもいいこと。  小さな彼も疑問には思わない。大好きな岳人パパが家族ぐるみで親しくしているだけのこと、親友の『いちい』がなんでも協力してくれて、甘えてもいい存在と認識しているだけで充分だった。  拓人が岳人パパと札幌に移住してきて半年が経とうとしていた。
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