1265人が本棚に入れています
本棚に追加
/196ページ
そのうちに一尉の視線が寿々花より先に拓人に向かう。
「ただいま、拓人。パパとおりこうさんにしていたかな。いちい、乗り物のお土産買ってきたぞ」
「自衛隊の車両? それとも、飛行機?」
お土産を約束していたので、拓人がわくわく目を輝かせる。
「どっちも両方だ」
「わーー! いちい、ありがとー!!」
制服姿のおじさんへと小さな身体で駆け寄って抱きついた。
彼が足下に来た男の子をさっと抱き上げる。片腕に乗せると、顔と顔が近づく形になるが、目と目を合わせてふたりともしあわせそうな微笑みを見せてくれる。
ちょっと妬けてしまう婚約者の寿々花だが、寿々花自身も願っていた姿がそこにある。
ほんとうのお父さんと息子が微笑み合う夕べ。
大好きとお父さんの首に抱きつく男の子。
でも寿々花は『ちょっと甘やかしすぎ』とも思っている。岳人パパから『買いすぎ与えすぎ』と指導が入りそう……。でもやっと息子との日常を過ごせるようになったばかりなので、一年ぐらいは大目に見ると岳人パパも笑って見守ってくれている。
父は自宅なので着替えたが、将馬は自分のマンションへ帰るので制服のまま、食卓に向かった。
ネクタイをほどいたシャツスタイルになり、彼が寿々花の隣に座る。
今日は皆が集まるからと母が手巻き寿司を準備してくれた。拓人がお気に入りになった遥ママのポテトサラダもある。
男たちが、冷酒で晩酌をして仕事の話。寿々花と母は拓人のお喋りを笑って聞いて相手をしている。
元は複雑な関係だったかもしれない。でも、いま伊藤家のファミリーの形はこの形で収まりつつある。
「ママとすずちゃんの演奏会してして」
寿々花の母もピアノを長くしていたため、リビングにはピアノがある。
最初のコメントを投稿しよう!