2.父の副官さん

5/5
前へ
/196ページ
次へ
「妻の遥です」 「娘の寿々花……」  彼と目が合った。副官らしく生真面目に固めた表情だったが、彼の目も見開き、驚きがひろがったのがわかった。寿々花もだった。制服と制帽の出で立ちですぐに気がつかなかったが、その顔全体を見てやっと認識する。 「あ、今朝の――」  ランニングの男性! 「え、ワンちゃんの――」  父と母も館野一尉が心を乱したことを見抜いて顔を見合わせた。  玄関で待っていても母が帰ってこないし、知らぬ客が来ていることでワンワンとヨキが吠えはじめる。  彼がその玄関をそっと覗いた。 「まさか、よっ君……」  新しい副官の彼から思わぬ言葉が出てきて、父と母もギョッとしていた。  今朝、ヨキを捕まえてくれた恩人だとすぐにわかったようだ。  犬好きの新しい上司とは。つまり、陸将補で旅団長の父のことだったらしい。
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1277人が本棚に入れています
本棚に追加