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「妻の遥です」
「娘の寿々花……」
彼と目が合った。副官らしく生真面目に固めた表情だったが、彼の目も見開き、驚きがひろがったのがわかった。寿々花もだった。制服と制帽の出で立ちですぐに気がつかなかったが、その顔全体を見てやっと認識する。
「あ、今朝の――」
ランニングの男性!
「え、ワンちゃんの――」
父と母も館野一尉が心を乱したことを見抜いて顔を見合わせた。
玄関で待っていても母が帰ってこないし、知らぬ客が来ていることでワンワンとヨキが吠えはじめる。
彼がその玄関をそっと覗いた。
「まさか、よっ君……」
新しい副官の彼から思わぬ言葉が出てきて、父と母もギョッとしていた。
今朝、ヨキを捕まえてくれた恩人だとすぐにわかったようだ。
犬好きの新しい上司とは。つまり、陸将補で旅団長の父のことだったらしい。
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