1.父親ふたり

1/5

1264人が本棚に入れています
本棚に追加
/196ページ

1.父親ふたり

 カメラを片手に待ち構えている『パパ』の隣で、寿々花も踏切の目の前で待っている。  芍薬(しゃくやく)が咲き誇る公園内に響き渡る踏切音。様々な植物や木々に囲まれた道を抜けてくる園内列車『リリートレイン』が近づいてきた。 「来た来た。最後尾に乗っていたよね」 「そうです。過ぎていく後の線路を見たいと言って、たっくんが」  廃油を燃料にしている列車が踏み切り音の中、先頭車両が到達し通過していく。窓からは手を振る子供たち、パパにママと笑顔のちびっ子たち。一両、二両……と過ぎていく。 「パパ~」  最後尾車両、しかも最後尾の席。そこの窓から顔を出して手を振る男の子が見えてきた。 「岳人さん、たっくん。見えましたよ」 「おっしゃ。三佐&たっくんを記録に残す任務を遂行する」 「もう、なんでも任務調になっちゃうんだから」  すっかり自衛隊に感化された岳人パパが任務遂行気分で、一眼レフカメラを構える。寿々花もビデオカメラを構え、見えてきた列車へと向けて撮影開始。  徐々に近づいてくる最後尾車両、最後尾の窓。ゆっくりと進むリリートレインが寿々花と岳人パパの前を通過して、ついにふたりが目の前に。 「すずちゃん! パパ!!」  愛らしい拓人がめいっぱい手を振っている。  そのそばには将馬が寄り添って微笑んでいた。 「三佐、パパとすずちゃん、いた!」 「拓人、窓から落ちるなよ」 「こっちこっち。三佐も拓人も、一緒にこっち手を振ってくれー!」  岳人パパのかけ声に、拓人と将馬が揃ってカメラに向かって手を振ってくる。 「すずちゃん! 駅でまってて。つぎ、ソフトクリーム食べるって三佐が言ってる」 「はーい。パパと一緒に行きますよー」  寿々花も笑いながら車両に乗っているふたりに手を振る。
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1264人が本棚に入れています
本棚に追加