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1.父親ふたり
カメラを片手に待ち構えている『パパ』の隣で、寿々花も踏切の目の前で待っている。
芍薬が咲き誇る公園内に響き渡る踏切音。様々な植物や木々に囲まれた道を抜けてくる園内列車『リリートレイン』が近づいてきた。
「来た来た。最後尾に乗っていたよね」
「そうです。過ぎていく後の線路を見たいと言って、たっくんが」
廃油を燃料にしている列車が踏み切り音の中、先頭車両が到達し通過していく。窓からは手を振る子供たち、パパにママと笑顔のちびっ子たち。一両、二両……と過ぎていく。
「パパ~」
最後尾車両、しかも最後尾の席。そこの窓から顔を出して手を振る男の子が見えてきた。
「岳人さん、たっくん。見えましたよ」
「おっしゃ。三佐&たっくんを記録に残す任務を遂行する」
「もう、なんでも任務調になっちゃうんだから」
すっかり自衛隊に感化された岳人パパが任務遂行気分で、一眼レフカメラを構える。寿々花もビデオカメラを構え、見えてきた列車へと向けて撮影開始。
徐々に近づいてくる最後尾車両、最後尾の窓。ゆっくりと進むリリートレインが寿々花と岳人パパの前を通過して、ついにふたりが目の前に。
「すずちゃん! パパ!!」
愛らしい拓人がめいっぱい手を振っている。
そのそばには将馬が寄り添って微笑んでいた。
「三佐、パパとすずちゃん、いた!」
「拓人、窓から落ちるなよ」
「こっちこっち。三佐も拓人も、一緒にこっち手を振ってくれー!」
岳人パパのかけ声に、拓人と将馬が揃ってカメラに向かって手を振ってくる。
「すずちゃん! 駅でまってて。つぎ、ソフトクリーム食べるって三佐が言ってる」
「はーい。パパと一緒に行きますよー」
寿々花も笑いながら車両に乗っているふたりに手を振る。
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