1.父親ふたり

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 園内をぐるっと一周するだけのエコ列車。遠ざかる姿を岳人パパと見送った。  やがて、ふたりの前にある遮断機のバーが上がる。  そこを彼と渡って、出発点となるエコ列車の駅舎がある方向へと歩き出す。  その道すがらにも季節の花が彩っている。 「仕事の資料に少し、撮らせてね」 「どうぞ、どうぞ」  札幌市内にある百合が原公園。いまシャクヤクとルピナスが線路沿いで満開だった。  岳人はデザイナーなので、気になるものがあると、どんなものも一眼レフのカメラで撮影する癖がついている。  でもそこには、息子の成長を記録する写真もたくさん。  彼が札幌に住むようになってから、それまでの拓人の成長を記録してくれた写真をたくさん見させてもらったこともある。  それもこの育てのパパになると覚悟した男が決めていたことだった。 『いつか。実の父親に渡せるように』。行き違いがあって、意図せぬ形で『略奪婚』をする側の男になってしまった岳人パパ。  せめてもの罪滅ぼしをいくつもいくつも積み重ねてくれていたのだ。  産まれてからの触れられなかった日々にあった息子の姿。それを実父の将馬も受け取り感激していた。  岳人がなさぬ仲なのに将馬に赦されたのは、最初から握りしめて歩んできた償いの日々があったからだ。  抱くことも、父と名乗ることもできなかった歳月の記録を、将馬は時間をかけてじっくりと眺めていた。  寿々花も一緒に見たかったが、そこは遠慮した。  彼が父親としての軌跡を取り返す時間だから、そっとしておいた。
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