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それが正解だったのか、将馬はひとりでじっくりと乳児だった拓人の写真を心ゆくまで眺めることで、心の隙間を自分のペースで埋められたようだった。
その後、彼と一緒に寿々花も眺めさせてもらった。一度、先に眺めたからなのか。『見てくれよ。この拓人。こんないたずらをしているんだ』と、ほんとうに寿々花より先に見てきた父親のように嬉しそうに教えてくれた。
そんな岳人パパのカメラは、いまは将馬と拓人という実の父子の姿をたくさん残そうとしている。
そんな彼と一緒に寿々花は公園の中央にあるガーデンを歩く。
「このご近所なんだよね。将馬さんのレンジャー教官さんのお住まいって」
「うん、そうみたい。うちの父も知っている元教官さんなの。将馬さんが最後の教え子だったみたいで、そのあとすぐにご家庭の事情で自衛隊を辞めて転職したみたいだよ」
今日は将馬がレンジャー訓練の時にお世話になった『恩師』のご自宅へと招待されている。新築したとのことで、そのお披露目のパーティーに呼ばれたのだ。
夕方からの開催なので、それまで近所にある公園で遊ぼうということになってここに来たのだ。
「自衛官のあとは探偵さんか。なんか、いろんな話が聞けそうだな。それでお嬢さんは、あの荻野製菓の本店にお勤めなんだよね。拓人ったらさ。『荻野のお菓子屋さんの人? ぼく、荻野のさくさくパイ大好き』とかさ、まるで菓子屋さんに行くみたいな気持ちになってんの」
「あはは。たっくんらしい。結婚式にも教官とお嬢様とおふたりで出席してくださったから、たっくんも面識ある分、気負いしていないのかもね」
「俺も一緒でいいのかな……」
岳人パパはいまでも、自分のことを『日陰の人間』のように表情を曇らせることがある。
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