1.父親ふたり

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 実際、これまでは将馬のほうが『日陰の実父』で、岳人が『日が当たる場所の父親』だったのにだ。 「事情をよく知っている教官さんだから、将馬さんと妻の私と息子さんと育てのパパと一緒にと言われているから大丈夫だよ。私たち四人で家族だとわかってくださっているから。私も将馬さんも岳人さんを置いて拓人を連れて行くなんて、もう楽しめないもの」 「そう言ってくれると安心するよ」 「四人で家族なのよ。これからもずっと」 「うん、わかっている。ごめん、変なこと言い出して……」  気にしてしまうのもわからなくもない。  元を辿ると、『日向(ひなた)』といえども、それは結婚した女性が『優先的に親権を持てた女性』だったから致し方なくという状態であっただけ。  同窓会で再会した『彼女』に婚約者がいるとも知らされず、騙されるようにして付き合いを開始してしまったのだとか。故意からではない過失に遭遇したことから、彼の罪の人生が始まってしまう。  久しぶりに会った同級生彼女との恋が始まったと思っていたら、やがて結婚式の日取りも決まった婚約者がいたと知らされる。館野側の弁護士がやってくる。『知らなかった』とはいえ『彼女が妊娠をしている。どちらの子供? 鑑定をしよう』という騒ぎにまで発展をしたところで、元は生真面目な青年だった岳人は、鳴沢家の巧みな『引き込み』に引きずられ、一緒に責任を取らされた経緯がある。  それに彼の実家は母子家庭で、父親という強い後ろ盾がなかったようだ。彼の母も『力になれなくて』と泣いていたらしい。  母と息子で『婚約者から彼女を奪ったことはかわりがない。償おう』と決したとのことだった。
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