1.父親ふたり

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 だからこそ。血が繋がっていなくとも『息子として育てる、育てなさい』と岳人とその母は決意していたそうなのだ。  なのに。鳴沢家の自分本位な有様。この家を覆う尊大なプライドは、拓人のためにならない気がすると良く思っていたそうだ。  自分がよくよく深く考えずに、数年ぶりに再会した女性とその気になってしまったばかりに。その浅はかさをいまも悔いているようだった。  逆にそんな後悔に苛む岳人を案じているのは、略奪されたはずの将馬だった。 『もし、だよ。あのまま俺があの女と結婚していたとしたら……。岳人君の悩みや苦労は俺がしていたはずなんだよ。彼は……あの女が望むままに、優しい男だからこそ餌食になったんだ』  将馬自身も『会えぬ息子のためだけに生きていく』と孤独を極めていたことも苦難だったと寿々花は思うのに、彼らの間にいると、互いが互いのこれまでの苦難を労りあっているのがよく見える。  この公園に初めて拓人を連れてきた時、あのエコ列車に一緒に乗る『親』はどちらか、なんて男ふたりが顔を見合わせたのを、寿々花は見てしまっている。  だから『みんなで乗ればいいじゃない』と、最初の乗車は寿々花がそう進めた。拓人だって最初からそのつもりでいるのに、事実を知っている父親同士がたまにこうした遠慮を見せ合う。  その後『乗っているところを写真に撮ってあげるから、パパと行っておいで』と切り出したのは将馬だった。
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