3.父の日なにする?

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 男子ふたり住まいのこぢんまりとしたマンションだが、いつも綺麗にしてある。岳人の繊細さがよくわかる部屋で、デザイナーの彼が好むインテリアはモノクロお洒落で男っぽい。  岳人パパもリモートワークとはいえ、家事と仕事を忙しく両立しているせいか、家の中では若干ぼさぼさ気味の髪に無精髭で疲れた目をしていた。 「たっくんとお散歩したいなと思って。よければ私、お買い物もしてくるよ」 「ほんとに? 助かる~。締め切り前なんだよ」 「それなら、たっくんはしばらく預かりましょうか。夕食、こちらで食べさせて寝る時間にまた連れてくるよ」  岳人パパが少し唸った。寿々花に将馬が預かるというと、二つ返事でお願いとは言わない人だった。  こんな時に寿々花は、心に痛みを覚えるのだ。  手を貸して助かることでも、岳人パパにとって、拓人がいない夜があり得ない感覚になっているのだ。拓人がいないと心許ない。本当の父親の気持ちがそこに育っていて確立している。故に、やはり実父である将馬のところに素直に行かせられない心も持っている。  これから彼はこの心を手放していかねばならないのかと思うと、寿々花も泣きたい気持ちになる。  将馬と本当の父子に戻って欲しい、知ってほしいと思う反面。岳人パパの気持ちを考えると泣きたくなることもある。 「そうだな。頼もうかな。ほんとうにちょっと時間がなくて」 「わかりました。お風呂も入れておこうか」 「うん、よろしく。こちらに帰ってきたら寝かせられるようにしてくれていればなお助かる」  ここで『うちで泊めてもいいですよ』と言いたくなることもあるが、将馬から言い出すまでは、また岳人パパから言い出すまでは、寿々花からは絶対に言えないことと心に決めていた。そこがちょっともどかしい。
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