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そんな彼が寿々花の目の前にやってくる。穏やかな眼差しで寿々花の頬に触れると、そのまま彼がおでこを寿々花のおでこにくっつけてきた。
「寿々花の澄んだ目を見ているとほっとする。そして愛おしくなる……。今夜もどうかな」
「お風呂まだ入っていないから……。その後……」
「だったら。待っているよ」
不意に、彼からキスをしてくれる。
そのまま彼だけベッドルームへと消えていく。
夫になっても寿々花は『館野一尉』の時と変わらない彼にドキドキしてしまう。そのうえ、見慣れてきたとはいえ、夜に男らしくなる彼を思い描くだけで、身体の芯が熱くなるのがわかる。
すっかり大人の女の身体になっていて、妻の身体になっていて……。将馬という男だけのカラダになっている。
基本的に優しいけれど、たまに彼も男のなにかが滾るのか獰猛な素振りをみせることがある。たまにだから……。その時に強く求められたり愛されたりすると、寿々花もたまらなくなる。
寿々花の澄んでいる目? 違う。それはあなたのほうだと寿々花はいいたい。強く荒っぽく扱うくせに、そんなときにこそ、あなたの目が透き通っているのを寿々花は知っている。
純粋に、おまえのためだけに、俺はいま燃えているんだよと。いまおまえだけだよ寿々花――と見つめてくれる目は澄んでいる。男の気を寿々花のカラダの奥に注ぎ込むほどに澄んでいく。混じりっけのない彼の想いを、男が放って置いていく熱を、寿々花のカラダの奥の奥に残して溶け込ませる。そうして愛されて、寿々花は女になって彼の妻になってきた。
初夏の夜風が入ってくる。今年もかすかにライラックの香りがするようになってきた。
翌朝になって寿々花のスマートフォンにメッセージが届いていた。
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