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百合が原公園そばの神楽教官宅まで訪ねる。
今回の依頼を快く引き受けてくれた芹菜ママが、いつもの優美な物腰のよさで出迎えてくれた。
「たっくん、また来てくれて嬉しい」
「こんにちは、芹菜ママさん、今日はありがとうございます」
「ふふ、お行儀いいわね。かわいい」
白髪ボブカットの初老女性だが、年齢を感じさせない愛らしさを持っている方だった。
寿々花が初めてお会いした時、既に義足をはめた状態で普通に歩行をしていた。義足を装着していることなど、言わなければまったくわからないほどのお姿だったが、聞けば少し前まで常に車椅子で過ごしていたとのこと。そう聞かされ驚いたことを思い出す。
拓人も初めて、自動車事故で足を失い義足をしている人を目の前にして、最初は戸惑って岳人パパのそばから芹菜ママを伺っていたほどだった。
片足がない人が怖いのではなく『どうおはなしをしたらいいのか。普通におはなしできるか』と怖々と聞いてきたらしい。もちろん優しい岳人パパのこと、『他の人と変わらないよ。ほら、ちゃんと歩いている。でも、歩けるようになるまでいっぱい困って、いっぱい哀しい思いもしたんだよ。でも他の人と一緒に見えるようになったことが嬉しかったと思うよ。他の人と一緒に見てもらうことがいちばん嬉しいと思うよ。遥ママと一緒だと思ったらいいよ』と、柔らかに諭していた声を寿々花もそばで聞いていた。
それからだった。急に拓人が『芹菜ママ』と呼んで、芹菜さんがびっくりして、でも嬉しそうに拓人とお喋りを始める。
『拓人くんが来ると聞いて、ママ、ケーキを焼いてみたのよ』
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