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そんな優秀な自衛官とも知らず、寿々花は『陸上選手ですか』みたいな質問をしていた。だが自衛隊の制服を着ていなければ互いに一般人。わかるはずもない。
なのに館野一尉は『こんなことしか能がない』と言っていたのだ。
夏季レンジャーは世間一般で知られている『レンジャー』と呼ばれる課程になる。『冬季遊撃』と呼ばれる訓練課程とは、まさに冬山雪原などでの雪中戦に備えた遊撃行動に必要な知識と技能を取得する訓練課程で、現在は真駒内駐屯地内の教育部隊が訓練を受け持っている。
冬季迷彩と呼ばれる白い戦闘服を着込み、重い装備を背負い足下はスキーを履いて、凍傷と隣り合わせ、ニセコの-40℃の雪山を歩く。かつてのソビエト連邦を警戒した防衛に重きを置いていたころから力を入れていた特別訓練でもあった。
夏季レンジャーを取得、なおかつスキー検定2級相当以上の資格、自衛隊のスキー技能検定の習得がないと受けられない課程だった。
冬季遊撃レンジャーの徽章を持つ隊員は、夏季レンジャー徽章、スキー徽章を既に持っている上で、冬季遊撃徽章も胸につけられる。
なおかつ彼は、金色のレンジャー徽章も持っているのだ。
つまりはかなりの身体能力があるということになる。そして過酷な訓練を耐え抜いてきたストイックなメンタルも持ち合わせている男ということでもある。
ああ、こんな話を聞いてしまったら、畏れ多くてもう気易く話しかけられないよ――。そう思うほど、彼が一気に遠い人になった気分だった。
父が率いる旅団司令部隊と音楽隊では業務内容も勤務する建物もテリトリーも異なるので、日常で会うこともそうはないだろう。
それに父と母にはもう『ヨキの恩人』として判明したので、両親から彼に御礼をすることだろう。
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