5.雪山とジーンズ

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 抹茶とか材料があるのか、ないのなら寿々花が買い出しに行こうと、芹菜ママに尋ねたのだが、『お菓子作りはユズちゃんと良くするので、大抵のものは揃ってるのよ』と笑ってくれてた。急なお願いも快く受け入れてくれ、寿々花は『ありがとうございます』と何度も頭を下げてしまう。  さすが。荻野製菓にお勤めの息子夫妻がいるだけある。それに『素敵な暮らし』のお手本ともいうべき、スーパー主婦な芹菜ママ。お菓子作りや料理になると準備はいつでもOKという余裕、これが私の日常とばかりの貫禄が窺える。子供にもすごく優しい。一度しか会ったことがない拓人が、あんなに安心して頼ってしまったのも、線が細そうに見える女性であっても、悠然とした母性を醸し出しているからなのだろう。寿々花の理想、尊敬する女性でもあった。  小柳母子と神楽教官に囲まれ、エプロンをつけた拓人はクッキーのデザインを決め、キッチンで調理を開始する。  今回はロールケーキをデコレーションすることにした。雪を模した白生クリームのロールケーキと、抹茶クリームのロールケーキをふたつ作る。  拓人と寿々花はクッキー作り担当、芹菜ママがロールケーキ担当になった。  荻野製菓に勤務しているからなのか、息子の広海さんは菓子作りの工程もよくわかっていて、拓人のアシスタントについて、逐一やり方をわかりやすく教えてくれる。その合間に、母親のケーキ作りのアシスタントへと忙しく動き回っていた。  小さな身体にエプロンを着けた男の子。ほっぺに小麦粉をつけて、ふんふんと生地をこねる姿がかわいくて、寿々花は途中で動画撮影をする。
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