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6.君たちの微笑みのために
白い雪ばかりの山中で、雪の壁を築き、そこを盾に銃を構える雪中迷彩の隊員。白い戦闘服を着込むその男に、寿々花も釘付けになる。
見間違えるはずがない。ゴーグルで目元は隠れているが、笑みのない冷たい横顔。夫の将馬だったからだ。
「あ、三佐。もしかして三佐!」
「うん、そうだ。館野だよ」
拓人も見抜いた。彼に取ってももう良く見知った顔になってくれていて、寿々花の胸からじんわりとしたものが込み上げてくる。
そうだよ。たっくん。きっと、たっくんが生まれたころ……。三佐があなたを奪われていちばん辛いときに、この訓練をしていたはず。心の中を無にして、いや……、忘れたいからこれほど厳しい訓練に身を投じて、なにも考えたくなかったのかもしれない。
神楽教官はその時から将馬の境遇を知っていて、訓練を見届けた恩師なのだ。
その子がいま。将馬が父親とは知らないのにそばに来るようになって、その子が父親とは知らないのに『父の日のプレゼントを大好きなパパと同じように渡したい』と言ってくれるまでになった。教官もきっと『ここまできた。その間、君のお父さんがどんなふうに頑張っていたか知っていてほしい』と思ってくれたのだろうか。
「雪中遊撃の訓練はね、北海道の海からなにかが侵略してきたら、雪の中でも防衛するための訓練なんだ。こうして護っていかなくちゃいけないんだ」
「……戦争するってこと……?」
一目見れば、大好きな将馬おじちゃんが危ない仕事をしていることがわかってしまう戦闘員の姿。いつもは『かっこいい』と目を輝かせる拓人が不安そうな顔になった。
それでも、神楽教官は優しい笑みを拓人に注いでくれる。でも目つきはは真剣だった。
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