6.君たちの微笑みのために

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「伊藤のおうちにいる遥ママがピアノを弾いて拓人君と楽しく唄ったり、芹菜ママが安心してお菓子を焼いて、笑顔で皆にお茶を煎れてお喋りをして、ユズに広海君が売っている『荻野のお菓子』が毎日無事に生産できて、たくさんの人が美味しく食べられる。そんな普通の日が普通にある。それを護っていくためだよ。そのためなら館野は吹雪の中も向かっていくよ。拓人君、だから、館野を応援してあげてくれよな。今日の応援、館野はすごく喜んでくれると思うよ」  今度の拓人は神妙にこっくりと頷いた。  その後も拓人は、神楽教官がめくる『冬季遊撃レンジャー』のアルバムを真剣に眺めていた。 『かまくら』のようなものをつくって休息をする姿に、凍ってるだろう食料を頬張っている姿もあった。最後は無事に訓練を終えた日の集合写真。その端に、現役だった神楽教官がいる。自衛官の男は職務中は笑わない。そこには隊員を厳しく鍛え抜くためだけに存在する強面の教官がいた。いつも楽しくお茶目な神楽のおじさんではなかった。 「教官、怖い顔してる……。でも『陸将補』も、制服の時は怖い顔するんだよ。三佐も……。お仕事の顔なんだね」 「うん。そうだね。でも、教官はおうちでは『うほうほのパパ』だったよ。ユズがよく知ってるよ。館野も、拓人君と寿々花ちゃんの前では、優しい男だろ」 「うん。パパの親友で、すっごく優しいよ。だから、ずっとパパとお友だちでいてほしいんだ……。ずっとすずちゃんと、パパと三佐と一緒にいたいんだ」 「いてくれるよ。絶対に」  今日は将馬おじちゃんが号泣する日だと思っていたのに、寿々花が号泣しちゃいそう。もう~涙を堪えに堪えても、ぽろぽろ出てきてしまってハンカチで何度も拭った。
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