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お昼ご飯は、ケーキ作りの合間にちょいとつまめる『芹菜ママ特製おにぎり』をご馳走になったのに、だった。その後もケーキ作りに精根尽き果て、拓人とはパパたちが帰ってきた後の打ち合わせなどしていない。だから寿々花は余計にびっくり。拓人はなにを聞かれても『それまでは嘘を突き通す』心積もりをきちんと持っていたということになる。
「そうか、そうか。それでこのお寿司の準備をしてくれたんだな。たっくん、ありがとうな」
父もパパを送り出した女たちと留守番をしていた拓人を、そうして労った。それにも拓人はにっこりと笑い返しただけ。
そして将馬。彼だけが真顔になっていた。
寿々花を見て、拓人を見て、義母になる遥を見て。黙ってビールを呷っている。
パパと『しょうほ』は平然とやり過ごしたのに、三佐に見つめられ拓人がそわそわしだす。同時に寿々花もだ。
ちょっとした機微を見抜けるのは、自衛官であるこの男。父はもう家庭モード全開なうえに、副官がそばにいるのですっかり頼り切って自衛官の精神も解除している。それに対して、夫の将馬はいつだって心を研ぎ澄ましている。
それが、拓人にはもう通じているのだ。寿々花がいつも『心を強くして平然としていないと夫にはすぐに見抜かれる』と隠し事をするのが難しいように。小学生になったばかりの拓人にも『三佐はなんでもわかっちゃう人』と認識されている。
「拓人。なにかあったのか」
「ないよ」
「転んで泣いたとか。おでかけ先で迷子になったとか、困ったことがあったのか」
「転んでも泣かないし、迷子なんてならないもん!」
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