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だから寿々花は慌てて首を振る。こちらから『将馬が父親である』という素振りは決して拓人に見せないように努めている。岳人パパがパパである以上は、将馬が父親だと匂わせることはしないと両親とも決めているからだ。
「ちがうよ。ぼくがすずちゃんに相談したの。パパとおなじように、将馬おじちゃんにも父の日のプレゼントしたらおかしいかなって。お父さんじゃないけれど、パパの大事なお友だちで、パパとおなじようにずっと一緒にいてほしいからって……」
また岳人パパが驚きで固まる。将馬に至ってはもう茫然としているだけ。『父の日』に、自分も父親同然の対象として贈り物をもらえるだなんて、微塵も思っていなかっただろうから当然のことだった。
「館野、岳人君。開けてみたらどうだ」
父に促され、やっと若い父親ふたり我に返った。
「あ、ありがとう拓人。なんだろう! ドキドキするな」
まず岳人パパから細長い箱のリボンを解いて、上部開封になっている箱を開ける。そこから現れた抹茶のロールケーキを見て、また彼が驚きの表情に固まった。
「え、これ。買いに行ってくれたんだ」
「ちがうよ。作ったんだよ」
「え、作った!?」
「うん。このクッキー、ぼくが作って色も塗ったんだ」
「え、え、えええ?」
岳人パパが戸惑う隣で、将馬もやっとその箱を手に取った。
彼もおなじようにリボンをといて箱をそっと開ける。
こちらは真っ白な雪と雪山レンジャーバッジのロールケーキ。
細長いクッキープレートには拙い文字で『さんさもおとうさんといっしょ』とチョコレートで描かれていた。
「俺が……、おとうさん……?」
ロールケーキの箱を、将馬は凝視したまま黙ってしまった。でも、その目がもう潤んでいるのが寿々花にはわかる。
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