7.お父さんといっしょ

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 その写真の男はまだ若く、でもその頃は、目の前にいる男児は既に生を受けて、おなじ空の下に存在していた。吹雪の中、堪えて訓練をしていた時、何を思っていた? この子の未来になにかあったら、この世を護れるように。そう思っていただろうと、妻の寿々花はそう思う。  それを神楽教官が、まだ父親と知らぬ男児に密かに教えてくれていた。その言葉を理解して、いま男児が実父を大事に思う気持ちを伝えてくれている。 「ごめん、岳人君……」  そう呟いた将馬が岳人パパの返答も聞かず、目の前にいる拓人をその胸にぎゅっと抱きしめた。いつも岳人パパを父親として優先させてきた将馬だったが、今日は堪えられなかったようだった。 「ありがとう拓人。三佐、嬉しいよ。ニセコの訓練は厳しかった、苦しかった。でも頑張れたのは……」  そこで彼の声がくぐもった。口をつぐんですすり泣く声だけが聞こえてきた。『でも頑張れたのは、おまえが生まれていたからだよ』。そう言いたかったに違いない。それでもまだそこは言えないから、彼も堪えた。寿々花の目頭も熱くなってきて、ハンカチで目元を押さえてしまう。だが隣に座っていた母もエプロンの端で目を押さえて涙ぐんでいた。  岳人パパも将馬が抱いている拓人の頭を撫でて、涙ぐんで笑っている。 「拓人……。パパも嬉しいよ。パパのことも、三佐とすずちゃんと家族でずっと一緒にいたいと思ってくれて。パパもいまがいちばんしあわせなんだ。この伊藤のおうちが大好きだし、神楽教官と芹菜ママと知り合いになれたこともとっても嬉しかったんだ。これからも、三佐とすずちゃんと一緒に頑張ろうな」 「うん! ね、ね、パパ。もうケーキ食べちゃだめ?」
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