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小学校から下校したら伊藤家へ向かい、そこで『遥ママとヨキの散歩に行く約束をしている』を名目に、在宅ワークをしている岳人パパの目を逸らしながら、練習をした。
寿々花も将馬も仕事をしているが、寿々花の音楽隊は土曜日曜にイベントで勤務になることが多いので、平日の代休日に三人で一緒に音合わせ。
拓人は割となんでも器用にこなせる子なので、すぐに覚えて形になったのだ。
出だしは母の単独イントロから。いままでは拓人が唄っていたメインメロディーは今回は寿々花が担当。母がメインメロディーを彩る伴奏を、同時に拓人がベース音となる伴奏を始める。
いつもの母の巧みなピアノ演奏に、かわいらしい拙い音が綺麗に重なる。音楽隊隊員である寿々花のクラリネット演奏で、伊藤家のリビングダイニングに、今日はなめらかなメロディーが奏でられる。
やがてメロディックなサビの部分で、ピアノもクラリネットも情感たっぷりな音調で盛り上がってくる中、拓人のベース音も乱れることなく美しい調和でついてきている。
パパたちはもう感動の笑顔を揃え、『拓人、すごい』と既に拍手をしてくれていた。これまたもう、ふたりそろって涙目なのか、交互に目元を拭っている。今日はもう、涙ぼろぼろなパパとお父さんコンビになっている。
演奏が終わると、ダイニングテーブルからは拍手喝采。
「凄い、拓人!! 音大卒のふたりの間で、拓人もプロみたいだったよ!!」
岳人パパの歓喜の声に、神経集中させて真顔ばっかりだった拓人も笑顔に戻る。椅子からひょいっと降りて、またテーブルに駆けていく。またパパと将馬おじちゃんの間へと戻っていった。
将馬も拓人が戻ってきて、感激の眼差しを注ぎ、男の子の黒髪を撫でた。
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