8.君は母親

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 スマートフォンを取り出すと、今日撮った動画に、ケーキの画像を何度も見ていた。その中には、神楽・小柳家でケーキ作りに奮闘している拓人の画像もある。寿々花がふたりのお父さんに送信してあげたものだった。  寿々花がかわいいと思って見守っていたクッキー作り。ほっぺに小麦粉を付けてふんふんと小さな身体で生地をこねている姿を何度も見ている。  寿々花もソファーの後ろから、嬉しい余韻にずっと浸っている夫の手元を覗いて、拓人が頑張っている動画を一緒に見つめる。 「よかったですね、三佐」 「ああ、こんな日が来るなんて思わなかったよ。これ、実家の父と母にも見せたいから送信していいかな」 「そうしてあげて。将馬さんがお父さんと知らなくても『お父さんと一緒。ありがとう。一緒にいて』と拓人君から伝えてくれたことを知ったら、お祖父ちゃんお祖母ちゃんとしても嬉しいと思うから。お義父さんもお義母さんも、本当の祖父母だとまだ名乗れなくて、かわいくてたまらないのにもどかしいでしょうしね」  やっと手元にやってきた初孫なのに『お祖父ちゃんだよ。お祖母ちゃんだよ』と名乗れなくて、札幌に会いに来てもたまにもどかしそうにしているお姿を何度も見ていた。『三佐のお父さんお母さんだから、同じように親切にしてくれている』と拓人は思っている。なにを受け取るにも、まずは岳人パパの様子を窺って許可を得てからお土産にプレゼントをいただく。きちんとしている拓人だからこそ、まだ素直に甘えられる存在ではないのだ。  それでもいい。会えないと思った孫、不憫な育ちになりそうだった孫を、なんとか取り返したと思っている義父母だったから、いまはそんな状態でも、会えれば楽しくすごそうと努めてくれている。
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