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そのうちに、将馬が父とわかる時がくれば、親切にしてくれていた将馬おじちゃんのお父さんお母さんは、ぼくのお祖父ちゃんお祖母ちゃんだったと受け止めてくれる日も来るだろう。
ソファーの後ろ側で立って覗いている寿々花へと、将馬が見上げた。
「寿々花もありがとうな。秘密にするのは大変だっただろう」
「うん、ヒヤヒヤしていた。だって、怖い館野三佐を騙せるかどうか自信がなくて。すぐに様子がいつもと違うことを見抜かれちゃうんだもの」
「怖いって。まあ、部隊ではそうあるべきと思ってるけど。でもプライベートで神経質にしているのは、寿々花にも拓人にも、なにかあったら心配だからだよ」
「わかっています。すぐに気がついてくれて、大事にしてくれていること伝わっているから。私も……、たっくんも……。だから、一生懸命にケーキを作って、セッションの音合わせもしたのよ。たっくん、上手だったでしょう」
また嬉しそうな笑みを見せてくれると予想していた寿々花だったが、将馬が静かに眼差しを伏せ、またスマートフォンへと視線を落とした。
そこには、寿々花と母と拓人が映っていて、『赤いスイートピー』のメロディがかすかに流れてくる。
夫の眼差しがとても澄んでいて、なにかを深く包み込むように優しくなっている。それは駐屯地で勤務している館野三佐であるときは決して見せないものだった。
そんな彼の隣へと、寿々花もそっとソファーへと腰をかける。彼のそばに寄り添った。そのとたん、将馬も寿々花の腰へと腕を回して抱き寄せてくれる。そうしてくれると彼の身体の熱がすぐそばに感じられて、寿々花も彼の肩先に頭をもたげて寄りかかる。
ふたりでピアノを弾く拓人を一緒に眺める。
「ピアノを習いたいって言いだしてびっくりしたよ」
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