9.パパのため息

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 その後もおなじようなものだったはずだ。小さなかわいい男の子は、彼女が素敵なママでいる時だけのアクセサリー。しあわせな妻という姿を保つために必要な『優しい夫と、かわいい息子』。しかし夫であった岳人パパがそこに従わなくなった。それが叶わないから、岳人と拓人を切り捨てられた。振り返りもしない。  お腹を痛めてもちっとも愛情を持たない女性がいることを、寿々花は知っている。いまはもう……。彼女にも母性があったはずという幻想は抱かないようにしている。 「すずちゃん?」  ブランケットを広げてくれた岳人パパが、寿々花の顔を見て案じた視線を向けている。寿々花は我に返った。きっとムッとした顔をしていたはずなのだ。  岳人パパがこんなに優しいから『どうして大事にしなかったのよ。完璧なパパさんなのに』と思わずにいられなかったのだ。 「ちょっとね、この前、ムッとしたことがあってね。その、母がいろいろうるさいから……」 「ああ。それはもう娘が初めての出産なんだから心配するよ。こう言ってはなんだけれど。息子のお嫁さんと、実の娘では案ずる気持ちは異なると思うよ。遥ママにとって娘の初産なんだから口うるさくなるよ」  まあ、それもあるにはあるけれど。母の小言など本当はそこまでではないのに。岳人の元妻について腹を立てていたとは言えず、誤魔化し笑いを浮かべるしかなかった。 「しかも女の子なんだろ。伊藤家にとっては、初の女孫だもんね。楽しみなんだよ。遥ママも」 「あはは。すでにかわいいベビー服に夢中になっちゃって大変なんだよね。もちろん、私もかわいいお洋服楽しみなんだけれど」 「将馬さん、男の子と女の子が揃うって喜んでいたね。俺も楽しみだよ。今度は女の子、かわいく写真に撮っていくからね」
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