9.パパのため息

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「ほんと!? この前動いたって教えてくれた時はぼくわからなかった。すずちゃん、おなか触ってもいい?」 「うん、いいよ。あ、また動いた!」 「寿々花、ほんとか。俺もまだ感じたことがない。拓人の次は三佐な!」  拓人と将馬が揃ってベンチ下の芝生に身をかがめて近づいてきた。  ブランケットをはいだお腹を拓人に向けると、彼がそっと手を当てながら耳を近づけてきた。 「うっわ! なんか、なんか。ぽんって来た!! この前は感じなかったのに!!」 「ほんとに? たっくん! 外から感じるようになってきたんだね」 「わ、まただ! わかる!! ね、三佐も触ってみて」 「ほ、ほんとか。どれ、」  拓人から将馬の手を取って、寿々花のお腹へと誘ってくれた。  夫の手が丸くなったお腹の上に優しく乗った。 「あっ……。ほ、ほんとだ!」 「ね、ね。わかったよね、三佐も。あ、ちがう。赤ちゃんのパパだった。赤ちゃんパパ。やったね、三佐パパ!」 「拓人兄ちゃんの声もわかるんだな」 「ぼくより、きっと三佐パパの声が聞こえたんだよ。だって、ぼくより三佐が本当の家族だもん」  ぼくは本当の兄じゃないから、本当の家族である三佐の声で反応したんだよ。  拓人が自然に口にしたその言葉に、将馬の表情が一瞬だけ固まった。  寿々花もヒヤッとした様子を一瞬だけ顔に出してしまった。岳人パパもだった。むしろ、岳人パパがいちばん青ざめていた気がする。それは寿々花にとっては思わぬ岳人の姿だった。いままでなら、当たり前のこととして『ついても良い嘘』として笑い飛ばしていたところだった。  将馬も寿々花も岳人も。なぜ、今日はここで流せなかった?
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