10.あなたの微笑みのために

1/12

1267人が本棚に入れています
本棚に追加
/196ページ

10.あなたの微笑みのために

 戸惑う拓人が岳人パパを見て将馬を見て、なんの冗談かと、さらなる説明を求めているのがわかる。  また岳人パパが意を決した確固たる表情で、拓人に語る。 「ほんとうは、ママと将馬おじちゃんが結婚するはずだったんだ」 「ママが、三佐と……結婚? 恋人だったってこと」 「そう。でも、拓人がお腹にいる時に、ママが将馬おじちゃんとは結婚できないと断ってしまったんだ」 「……三佐のこと、嫌いになったってこと……?」 「自衛隊の奥さんになりたくなかったんだよ。だって、大変なお仕事をする旦那さんになるんだ。お留守番が多いこと、拓人もわかるよな」  自衛官には長期の演習訓練出張もあれば、持ち回りの『宿直』という駐屯地に宿泊常駐をする当番もまわってくる。そうすると、一家の主である父親が家にいる日数はわりと少ない。将馬は有望幹部でなおさらだった。  拓人もそれは数年一緒にいてよくわかっていたからか、こっくりと頷いた。 「あのママが。子どもの拓人と一緒に、大人ひとりで留守番できると思うか?」  思わないと拓人がはっきりと首を振った。  札幌に来るまでも、物心ついたばかりの幼い男の子だったのに、実母の『ママにはできないこと』がなにかよくわかっている。それがまた寿々花は哀しいし、将馬はまた眉間にしわを寄せて怖い顔をしている。 「だから。結婚をやめたんだ。ママは将馬おじちゃんから逃げたんだ。その後に、おなじ高校に通っていた同級生のパパと出会って結婚したんだ。おなかには拓人がいたけれど、パパはその時、ママのことが大好きになったから、拓人のパパになると決めたんだ。将馬おじちゃんはもう、会ってはダメという約束を無理矢理させられたんだよ」 「ど、どうして……」
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1267人が本棚に入れています
本棚に追加