10.あなたの微笑みのために

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「ママがもう将馬おじちゃんには会いたくなかったからだ。逃げちゃったから、会えなくなっちゃったんだよ」  そこで拓人が将馬をじっと見つめてきた。  ママと結婚をやめて、じゃあ三佐はぼくのお父さんとわかっていて、どうしてずっと黙っていたの。拓人は賢い男の子だが、まだ七歳の彼にはそこまで言葉で伝えるほどの力はないようで、ただただ視線で訴えているように寿々花には見えた。さすがの将馬も当惑している。どうしようもない理由があったとしても、実の父親ならどうしてと責められているように感じるのだろう。  そこも岳人パパがすかさずフォローしてくれる。 「法律の約束をして会えなくなったんだ。そのかわり、拓人のため、拓人を育てていくためのお金をほんとに沢山沢山、ママとパパに届けてくれたんだ。自衛隊のお仕事をいっぱい頑張って、雪山のレンジャーのバッジを取って、うんと優秀な自衛官になって、昇進をして。もらうお給料のほとんどを拓人に送ってくれていたんだ」  お金の話など子どもにはピンとこないはずだし、本来は聞かせなくてもいい。でもだったら将馬にできることは他になにがあったかと伝えたくても、他にはなにもない。『それしかさせてもらえなかった』のだから。唯一果たせる義務を、きちんと拓人のために果たしていたことが、父親としての愛情だったと岳人パパは懇々と説いている。  拓人もよくはわからないが、パパがそこまで一生懸命に伝えようとしているから『将馬おじちゃんは、ぼくのことをいつも忘れずに頑張って、お父さんとして気にしてくれていた』ということは理解したようだった。
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