10.あなたの微笑みのために

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 寿々花もお腹を撫でて、娘にもその日々を与えたいとそっと微笑んだ。  これからきっと、兄と妹の仲睦まじいしあわせな姿を見せてくれるはず。凜々しいお兄ちゃんになる拓人と、小さな女の子を思い描く。ふたりが手を繋いで……。  ――と。そんな男の子と女の子の姿を思い描いた時。寿々花は急に気がついたのだ。  女の子。だったから?  拓人がもう少し大きくなってから真実を伝えようと決めていたはずだった。岳人パパとも将馬ともそう話していた。でも岳人パパが急に思い詰めて、まだ七歳の拓人に真実をつきつけたのは……。  また寿々花は振りかえる。秋の枯れ葉が舞う向こうで話し合っている岳人パパへと。 ---🐶🍁  寿々花が気がついていたことは正解だった。  あの後、岳人から『どうして突然打ち明けたのか』という彼の心情を教えてもらった。 『お腹の子が女の子とわかったからだよ。血の繋がりがない異性として接する日々を積み重ねることは良くないと思ったからだ。兄妹ではないと思わせておいて、親しくさせておいて、いい年ごろになって実は兄妹だったと言われた時。ほんとうに兄妹として見られるのか。その時には違う意識が芽生えていないか。万が一がある。それでは遅い。それならば、多少、拓人の心の負担になっても、いまのうち、出産前に真実を告げる。最初から自分は正真正銘の兄で、生まれてくる子は血縁ある女性だと意識させたかった』  さらに岳人パパは付け加える。『兄と妹が異性で惹かれ合うなどという発想が出て案ずる意識を持てるのは、おそらく俺が他人だから』。  やはり岳人パパは思慮深い男性だと、寿々花は痛感させられた。
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