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『妹~、いらっしゃい。がんばったね。兄ちゃんだよ。妹~、清花って名前に決まってるんだよ~』
だっこはまだ出来ないけれど、小さな手を握ってくれ、一生懸命話しかけてくれた。
産まれたばかりの子どもの写真をスマートフォンで撮影をして、夫と父へと送信をした。
その日は寿々花も初めての赤ちゃんのお世話や休息で、あたふた過ごしていて、いつのまにか夕刻になっていた。
「すずちゃん! また来たよ! 清花、いまどこ?」
母と様子見に再度訪ねてきてくれた拓人が病室に駆け込んできた。
ベッドへと元気いっぱいに駆け込んできてくれたのは拓人だけかと思ったら、彼が一生懸命に引っ張ってきてくれた男性がひとり。
紫紺の制服姿の男がそこに立っていた。
「寿々花」
「将馬、さん……。ど、どうして。まだ帰る日じゃない……のに」
「旅団長が先に帰れとうるさくて。後輩の秘書官に任せて帰らせてくれたんだ。飛行機で急いで戻って来た」
照れくさそうな彼が、寿々花のそばに置かれているベビーベッドにいる小さな赤ちゃんへと目を向けた。
ちょうど授乳でそばにきていた時間で、娘はすやすやと眠っているところ。
「ひとりで頑張ったな。お疲れ様。でも、また出産には立ち会えなくて……」
「自衛官だもの。絶対に立ち合わなくちゃ父親になれないわけじゃないって話したじゃない」
「だから、お義父さんが、今度は産まれた日ぐらいいてやれと。それは間に合ったかな。でも明日はまた旅団長のもとに戻るよ。せめて今日だけ――」
職務第一のはずの旅団長なのに。父に感謝をしなければならない。寿々花の目からも涙がつたう。
制服の彼がそっと、その子に近づいた。
拓人も一緒に将馬と覗き込んだ。
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