10.あなたの微笑みのために

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「清花、お父さんが来たよ。ぼくと、清花のお父さんだよ。おなじお父さん」  拓人から出た言葉に、将馬も嬉しそうにして彼の頭の撫でながら、優しい眼差しで眠っている娘を見つめてくれる。  その拓人が制服姿の将馬を見上げて微笑む。 「お父さん、清花、すごく小さいね。お父さんがいないときは、ぼくが清花を守るよ」  将馬の表情が固まった。寿々花もだった。  拓人が『お父さん』と――。  ベビーベッドのそばで跪き、息子を抱きしめて泣き崩れる自衛官の男がそこにいる。 「お父さん、はやくだっこしてあげて。パパも、お父さんの次じゃないとだっこできないって待ってるから」 「うん、そうだな。岳人君にとっても、清花は家族になるからな」  自衛隊制服姿の父親、その腕に初めて娘が抱かれた。  いま窓の外には雪が降りしきっているのだけれど。  彼の紫紺の制服には、白いアカシアの花が降り注いでいるように寿々花には見えた。しあわせの香りに包まれて、初夏のやさしい風に、家族といっしょに微笑むことができる世界にいる。深い雪は、優しい花びら。凍てつく世界に、あなたはもういない。
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