5.冷たいのは……

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 落としどころが『婚約破棄』、生まれる子供は母親のそばにということで親権は彼女へ。生まれた子は男の子。彼女は望んだ相手と結婚を決め、物心つかぬ乳児はそのまま同級生の男性を父親として育てることになったと、寿々花は聞かされる。  彼女が選んだ同級生の男性を父親として育てたいからと、面会も拒否され、館野一尉は出産にも立ち会えなかったらしい。  血が繋がってるが故に、彼の信条で養育費は渡し、会えずとも成長の知らせは届けてもらっていると母も聞かされているとか。  ずっと音楽ひと筋、恋にも疎い寿々花には、遠い大人の話、諍いだと思っていたが、そばに来た男性にそんな哀しい過去があったことを知ってしまう。  あの人が放つ冷たい空気は、もう人を愛したくもない、信じたくもない、だから俺に近寄るなという警告なのかもしれない。  こんな話を聞いてしまったら、気易く近づけないどころか、どう接して良いかわからなくなる。  彼の過去を知らない人間だったら、もしかしたら何も知らないからこそ、彼の気に障る無神経な気楽さで傷つけるかもしれない。  そう。大人の彼は遠いところにいるのだ。  彼が副官のうちは、父と母が周囲をガードしていくのだろう。   それにもう接点もないしね――。  そんなことを考えながら緑に囲まれ始めた公園散策道をゆく。  今日もランニングをしている人、ウォーキングしている人もたくさん見かける。  ヨキもちょこちょこ小走りで前をゆく。  いま散策している2キロコースと、公園外周を巡る3キロコースとの交差している地点がもうすぐ。  そこを、白い帽子を目深にかぶってサングラスをしている男性が走り抜けていった。  またもやリードがピンと伸びきって引っ張られる感覚! 「え、よっ君?」
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