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最初こそ、根掘り葉掘り、父親のことや館野一尉のことを聞かれていたが、寿々花が『父と母が』と言い出すと、みな察したのかその話題を出さなくなってきた。
だから、寿々花も安心して気を抜いていた。
茶話会のような休憩が終わって、次の練習時間のために女性たちはお手洗いに向かう。
先に向かった同僚たちが、そこでなにかを話していた。
「やっぱり、旅団長のお嬢さんがいるといろいろ話しにくいよ」
「うん。ぜんぶ報告されていそうだよね」
「館野一尉のこともでしょう。あ、でも。彼女には聞けなくなったけれど、前いた駐屯地にいる同期からいろいろ聞いちゃったんだ。館野一尉は結婚しないよ。お子さんがいるんだって」
「え、うそ!!」
ええ、こっちが黙っていても知られちゃうものなんだと寿々花は目を丸くする。
入り口手前の壁に身を隠していたが、盗み聞きしているので心臓がバクバクしている。
このまま去ろう。あとのことは自分がどう言われるかもわからず、寿々花はやり過ごそうとした。だが続きが聞こえてくる。
「なんで結婚できなかったの。奥さんと離婚したとか」
「わからないんだよね。そこらへんは。なんかストイックそうな人じゃん。奥さんにも『自衛官を支える妻であれ』と押し付けてたんじゃないの。あんなにレンジャー習得していたら、家にいないでしょう。カノジョさん、不安だったんじゃないかな」
「意外とモラハラ気質だったりしてね。職務第一で奥さんをないがしろにしてたとか。妻がいるという体裁だけあればよかったんじゃないの」
「イケメンで優秀、でも独身なのは、なにかあるよねきっと。それで伊藤士長も、旅団長とお母さんに口止めされて、話題が出ると深くは喋ることはできないという姿勢だったんじゃないのかなあ」
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