6.一尉の悪い噂

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 あり得る~とそこにいた女性隊員が揃って頷いていた。  そんな男性だから、いくらイケメンでも恋をしても無駄。恋をしたくてもできない存在であれば気にすることもなくなる。そんな存在であればいいのだと、館野一尉の男性像をでっきあげて女の子同士で納得して、追い立てているようだった。  離婚なんかじゃないし、モラハラでもない!!  寿々花の頭に一気に血がのぼった。  一方的に傷つけられたのは一尉で、ほんとうは息子さんを大事にしていて――。それで!!  踏み込もうとしたそこで、誰かに肩を掴まれていた。  どっきりとして振りかえると、音楽隊の女性隊員をまとめている女性上官『堂島陸二曹』が無言で立っていた。  口元に『静かに』という指を立てた仕草をみせた二曹は、寿々花をそこに留まらせ、自分はトイレへと入っていく。 「外まで聞こえていますよ。慎んでくださいね。司令部の方がそばを通っていたり、こちらの上官の耳に入ったりしたら、見逃してくれないこともありますよ」  かしましくしていた女性たちの声が沈んだのがわかった。  その気配を知って、寿々花は堂島陸曹が気を利かせてくれたことを無駄にすまいと、彼女たちと鉢合わせをしないよう立ち去った。  立ち去ったのだが、その後も寿々花の頭は冷静でなくなっていたのか、演奏に集中できずにいた。  その日の終業後、堂島陸曹にも個別に呼ばれ『仕方がないけれど、どのようなことがあっても務めるのが仕事ですよ』と注意をされた。
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