8.ワンコは忘れない

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 父に支えられ、母がヨキと一緒に玄関に上がろうとしたところで、寿々花がヨキを抱きかかえる。  そこで館野一尉が『では』と立ち去ろうとしたのに、父が呼び止めた。 「せっかくだから、館野も朝食を食っていけよ。ちょうど娘と仕上げたところだ」  寿々花もだが、館野一尉もギョッとした顔になって固まっている。 「え、いえ……。自分は、帰宅して支度もありますし」 「どうせ、お前も今から朝食だろう。時間短縮になるし、常々、俺の朝食を食べさせたいと思っていたのだよ~」  あ、断れないパターンに追い込んだ……。  おなじ自衛官の寿々花は『陸将補がそこまで言ったら一尉ごときは断れない』ことを察知する。  真顔の一尉だったが『そんな、将補のご自宅で食事なんて』と逃げたい口実を一生懸命考えていることが伝わってくる。助け舟を出すかな。おなじ下官としての助け舟、娘としての助け舟。『お父さん、やめてあげて』――と。 「あら、いいじゃない! ねえねえ、館野さん。お父さんね、ここ二、三年なの、朝食を作り出したの。すんごく上手になったの。褒めてあげて、食べてあげて!」  わ、奥様援護が入っちゃったよ。こりゃダメだ、終わった。  寿々花もがっくり項垂れる。そのため、可哀想な館野一尉が『それでは』とおずおずと、伊藤陸将補宅の玄関へと入ってしまった。  すでに整っているテーブルに、もうひとり分の席を作り配膳をする。  エプロンをしていた寿々花が準備をした。
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