1.ワンコより速い男

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 寿々花は茫然として立ち止まってしまったが、我に返って急いで男性の元へと走り出す。 「あ、ありがとうございます!!」  顔を上げた男性がにっこりと笑う。  鼻筋がすっと通った面持ちの男前スマイルだったので、寿々花は一瞬どきりとときめいたほど。頬がすこし熱くなる。 「すばしっこかったですね。後ろを走っていたんですけれど、急に飼い主さんと距離があいたかと思ったら、ちいさいのに弾丸みたいにあっという間に遠ざかっていくので、自分もびっくり目を丸くしちゃいましたよ」  犬の扱いに慣れているのかと思ったが、両脇の下だけ抱きかかえられているよっ君がジタバタするので、困った様子の彼がぱっと地面に降ろした。また逃げられないように脇を持っているだけで、身をかがめて掴んでいる彼が『うわうわ、動かないでくれよ』と焦っている。  そのうちによっ君から、寿々花の足下まで走って戻って来た。 「よっ君、ごめん。っていうか、よっ君、思った以上に速くてびっくりした」  ちゃんとお尻からすくって、寿々花はよっ君を抱き上げる。  知らない人に触られたからなのか、よっ君はそのまま寿々花の両腕に収まって大人しくなった。 「ほんとうに、ありがとうございました。母から頼まれて散歩を代理でしていたのですが、ここで見失うことになっていたら……私……」  母に怒られるよりも、よっ君の姿が見えなくなり行方不明になったらと思ったほうがゾッとして、うっかり涙が滲んでしまった。 「よかったです。俺の足がバカみたいに速いことが役に立って。こんなことしか能がないものですから」 「そんな。私もけっこう走るほうですけれど、ものすごい瞬発力でしたよ。スプリンターですよね」 「あ、まあ。でも短距離走者ではないですね」
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