9.息子に会いたい

3/7
前へ
/196ページ
次へ
 翌朝からまた、真駒内公園で彼と会うようになった。  もう彼は寿々花を避けないし、むしろ同じコースに戻って、会ったら一緒に歩くようになった。  少し休憩する時も、ベンチで一緒に座ってくれるように。 「困ったことになりましたよ」  タオルで汗を拭いている彼が、寿々花の隣でそんなことを呟いた。  心底困り果てているのか、最近は穏やかな笑みを見せてくれるようになったのに、この日の朝は苦々しい表情で口元を曲げていた。 「どうかされましたか」 「お父様に相談するかどうか迷っています」 「私が聞けることですか」  ヨキにペット用水筒で水分補給をさせていると、彼もヨキの頭を撫でながらため息をついている。 「寿々花さんには思いっきり話した手前、なんでも話せるというか……」  え、そうなの! いつのまにそんな立場になっていたのと寿々花は飛び上がりそうになる。  館野一尉に、あんなに厳しく突き放されたが、あれがかえって彼にとって『本音を存分にぶつけた人』ということになっているらしい。  だって。あれから笑顔を見せてくれるんだもの。  それでも。彼が言いにくそうにしている。  言えないならそれでもいいと、寿々花は彼の気持ちが固まるでヨキを眺めて待っている。 「婚約破棄をした時にお願いした弁護士から、あちらの両親から久しぶりに連絡がありまして。息子に会わせてくれるとか言いだしたそうなんですよ」 「え!? えええ!!」  彼より寿々花がすっとんきょうな声を上げていた。  だが、館野一尉は寿々花の声に驚きもしないで、重苦しい様子のままだった。
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1277人が本棚に入れています
本棚に追加