9.息子に会いたい

4/7
前へ
/196ページ
次へ
「あの、聞いてもいいですか。お子様には一度も会われていないのですよね」 「一度も。下世話な言い方ですが、ほんとうに種だけあげたかんじです」 「おいくつなんですか」 「五歳です」 「あちらのお父さんをお父さんと思われているんですよね」 「はい。そうするために身を退きましたから」 「えええ、おかしいじゃないですか。あちらが望んで、一尉に『近づくな』というようにまとめられちゃったんですよね」 「そうですよ。確かに、息子のためにはそのような環境が良いだろうと納得はしてのことですから。気にはしていますけれど、邪魔をする気など一切なかったし、首を突っ込んだこともないですよ」 「えええ~、なんですかそれ、急にどんな心境で? 怖い……」  寿々花が『なにそれ、意味がわからない』とドン引きしてる顔を見た一尉が、ほっとしたのか微笑みを浮かべた。 「良かった。俺、間違っていないですよね。確かに息子には会ってみたいけれど、会ったらおしまいというか。それまでの『調和』が崩れる気がしているんですよ。会いたいけれど会うべきではないと思う気持ちは、父親ではないのかとか。そもそも自分は『種』だけで父親でもないかとか。あちらの両親がどうして今ごろとか、けっこうテンパっています。この状態では、さすがに上官にはまだ言うべきではないかと思っていまして」 「ですけれど。館野一尉の信条は職務の負担になるトラブルは避ける、ですよね。こういってはなんですけれど、女性トラブルを避けることも大事だったかもしれませんが、親族トラブルだって同じですよ。あ、親族ではないですよね、あれ、息子さんと血縁だから親族、かな」  ややこしいかも。と寿々花が思ったとおりなのか。 「複雑になるから、邪魔をしないように任せていたのに。自分の両親にも相談をするために連絡をしたのですが、父も母ももの凄く怒っているんですよ」
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1277人が本棚に入れています
本棚に追加